眼球をカメラに例えると一番前と二番目にあるレンズ、つまり角膜（黒目）と水晶体の手術が私の専門分野です。

角膜と水晶体はどちらも光を曲げるレンズの役割をしますが、この部分をレーザー装置や超音波手術装置を使って網膜にピントがあうように治療するのが得意分野ということになります。もちろん緑内障や網膜疾患などほとんどの病気を診察しますが、硝子体手術など高い専門性が要求される病気の方は信頼できる先生を紹介することにしています。

白内障手術は、小さな切開創から濁った水晶体を砕いて吸い出し、かわりに人工の眼内レンズを折り丸めて入れるという方法で行っています。手術としては完成された術式なのでどこの医療施設でもやり方に大きな違いはないと思います。違いがあるとすれば型どおりに済まない難しい症例の患者さんの場合でしょうか。

新規開業してから15年以上たちましたが、毎年800人ほどの患者さんを執刀させていただいていると、一筋縄ではいかない難しい手術をたくさん経験します。ひと口に白内障といっても個人個人が千差万別で異なり、手術前の診察だけでは想定できない状況に遭遇することがあります。しかし、これまでの経験からそのような場合も様々なテクニックを総動員して無事に終了させることに多少自信を持てるようになりました。白内障は通常ご高齢の方が多いですが、30〜50代の患者さんも最近は増えてきているように感じます。また、遠近両用の多焦点眼内レンズやレーザー白内障手術、白内障と緑内障の同時手術なども行っています。

年代やライフスタイルによって求める見え方というのは異なります。患者さんの要望も伺いつつ、仕上がりについては日常生活での必要性なども考慮します。

当然、個人によってライフスタイルなどは違いますので、個人個人に合わせた治療計画を立てることで満足度が上がるように工夫します。そのためにも正確なデータを取ることが重要で、最低でも2回以上は同じ検査をしてばらつきによる誤差が少ないようにします。その上で、過去の経験から総合的に判断して患者さんに一番良いと考えられる見え方を提案します。ただ個人の価値観は多様ですから、最終的にはご本人の希望とのすりあわせを怠らないようにしています。

「昔からずっと近視のためメガネを外すことができなかったので、裸眼で遠くを見ることが夢だった。」と強いご希望を持って来られる方もいらっしゃいます。やはり少しでも患者さんの希望に寄り添う形で願いをかなえてあげたいと思います。
「先進的な治療を１回受けるだけで、見え方が全て良くなる」と期待して、いきなり手術を希望される方もいます。手術は行わないのが一番安全なわけですから、メガネやコンタクトレンズさえしたことのない人が、それを飛ばしていきなり眼内レンズや角膜レーザー手術を求めるのはいかがなものかと思います。そういう方には、労をいとわずに手順を踏んでみるのが良いのではないかとお勧めします。多くの選択肢をひとつひとつ試しながら手順確認をして、その人に合った治療法を模索し、最終的に安全にゴールにたどり着くことが大切な場合もあると考えています。

私が仕事に充実感を感じる時は、治療がうまくいき「見えるようになって良かった」と言ってもらえた時です。ですから患者さん目線に立ち、患者さんが何を求めているかを常に考えて応えたいと思っています。ただ説明に時間をかけるほど待ち時間が長くなり、診察できる人数が減ってしまうというジレンマもあります。一筋縄ではいかない難しい病気の時ほど、なんとか治せないだろうかと意欲がわきます。無事治療が完了すると患者さんの喜びも大きいですし、私も達成感を感じます。結局医者は患者さんが先生であり、患者さんから元気と力をもらっているわけです。臨床医を長く続けていると当然自分の力不足にも気づかされます。今後も使命感を持って自分にできることをこつこつと続けていこうという気持ちでいます。