単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズについて
白内障手術では、濁った水晶体を取り出し、眼内レンズを眼の中に入れます。この眼内レンズには2種類あり、患者さんの眼の状態やご希望などに合わせて決めていただきます。
単焦点眼内レンズ
ピントが1箇所にだけ合うレンズです。遠くに度数を設定すると近くが見えづらくなり、近くに度数を合わせると遠くが見えづらくなります。ただし、メガネを使用することで近くも遠くも見える状態を実現することは可能です。
多焦点眼内レンズ
複数のピントを持つ従来型の多焦点レンズと、焦点の幅が広くなった新しいタイプの多焦点レンズがあります。遠くから手もとまでが見やすくなるので、単焦点眼内レンズと比べてメガネの必要性がだいぶ少なくなります。
眼内レンズによる見え方の違い
単焦点眼内レンズ度数の選択
見え方が自然な新しい多焦点眼内レンズ
①多焦点眼内レンズには、光を2~3つの個別の焦点に分割するタイプと、焦点深度を広げるタイプがあります。現在当院では、3焦点型のパンオプティクス®(米国アルコン社製)と焦点深度拡張型のテクニス シンフォニー オプティブルー®(米国ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)を主に用いています。どちらのタイプにも乱視を軽減させるトーリックタイプがあります。
②従来の多焦点眼内レンズと比較すると、近年の多焦点眼内レンズは光のエネルギー損失が少なくなり、コントラストを維持しながら広い明視域で自然な見え方が得られると期待されています。
③新しい多焦点眼内レンズの方が、光のまわりにまぶしいにじみが生じるグレアや光の輪が生じるハローが従来の多焦点眼内レンズよりも軽減すると期待されています。しかし、夜間の運転が多い業種の方(タクシー・トラック・バスなど)には注意が必要です。
④全ての距離が裸眼でまんべんなくクリアに見えるようになる眼内レンズは残念ながらまだありません。しかし、多焦点眼内レンズ度数に軽い左右差をつけたモノビジョンにすることで、全体的に少ない眼鏡装用率を実現することができます。85%以上の患者さんが眼鏡をまったく着用しないか、短時間だけ使用する生活をしています。
⑤眼内レンズの材質は非常に大切な検討課題です。40~60歳代の比較的若い年齢層の患者さん達にも多焦点眼内レンズの希望者が多いようです。レンズのデザインや見え方の光学特性も大切ですが、長期間にわたり眼の中で安定した性質が臨床的に確認されている材質の眼内レンズをお勧めします。何十年たってもレンズの材質劣化が生じにくい信頼性は、何物にもかえられない重要なポイントだと私達は考えます。比較的最近我が国で使用された眼内レンズでも、材質劣化から摘出手術が必要となり、患者さんにとって非常に厳しい結果を生じている事例があります。年月を経た眼内レンズを入れ換える手術は難しく、術後の見え方に重大な影響を残す可能性があるからです。
治療費の違い
単焦点眼内レンズか多焦点眼内レンズかを選ぶ際の要素として、費用があります。単焦点眼内レンズは保険が適用されるため3割負担の方で片眼およそ45,000円ですが、多焦点眼内レンズは保険外診療となるため片眼で40万円になります。
当院の考え方
多焦点眼内レンズの方が費用が高いため、「良いもの」であると考える方がいらっしゃいますが、大事なのはその患者さんの眼に合うかどうか、そして手術後に気持よく生活できるかどうかです。
そのため当院では、その患者さんが多焦点眼内レンズ(高い方)を望んでいたとしても、単焦点眼内レンズで十分だと考えられる場合には、そちらをお勧めするようにしています。また、事前の診察では多焦点眼内レンズをご希望されていた場合でも、手術直前に眼の状態を確認し、やはり単焦点眼内レンズの方が良いと思われる場合には、変更をご提案させていただくこともあります。
「見える」というのは、光の結ばれ方だけで決まるわけではなく、網膜や神経を経由して信号が伝わり、最終的には脳がどう感じるかが大切です。数値としての視力ももちろん大事ですが、私たちは、患者さんが気持よく「見える」状態を追求し、最後に笑顔で治療を終えられることを目指しています。